SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられているように生態系保全や持続可能な利用を進めるうえでは、生態系のダイナミクスを理解することや予測をすることは、主要な研究課題になります。近年、生態系のダイナミクスを計測された時系列からデータ駆動的に解析を行うEmpirical Dynamic Modeling(EDM)という手法が注目を集めています(Sugihara et al. 2012)。EDMでは計測時系列データの状態空間への埋め込み(図1A)により得られる幾何的な特徴をもとに、生物種間関係の経時変化を計算します(図1B)。しかし、計算された生態系のダイナミクスは高次元データであり且つ経時変化をするので、その特徴を詳細に把握し、機構的な理解を得ることは困難です。
そこでEDMを開発したUC San Diegoのグループと共同で、EDM解析と次元削減、連携可視化を統合し、生態系のダイナミクス理解に資するビジュアル分析システムを研究開発しています(図1)。開発しているビジュアル分析システムは、生態系のダイナミクスの状態を特定し、可視化された特徴を基に注釈を付け、状態間の移り変わりを可視化することができます。本システムを海洋メソコスムデータに適用したところ、生態系の新たな特徴を見つけることができ、メカニズムに迫る状態の変化を描写することに成功しました。このように、先端の解析手法と情報可視化技術を組み合わせることで、よりよいデータ理解を可能にします。
図1 生態系ダイナミクスのビジュアル分析 (A)個体群動態時系列データにEDMを適用することで( B) 生態系の種間関係を表す動的グラフを構築する。(C)構築した動的グラフから次元削減法や連携可視化を用い、生態系の状態を特定し、(D)状態遷移を表現する。